ドラゴン伝説で1年の幕開け 漆芸作家がコレクション

2024年、ベトナムの干支(日本と似た十二支がある)は日本と同じく龍。龍は強さや力、幸運、守護のシンボルであり、ベトナム人にとっては特に深淵な意味を持つ。そんな龍に魅せられた漆芸作家、グエン・タン・ファットさんの新作コレクション「龍と妖精の子孫」がハノイ近郊のドンラム古代村のファッツ・ワークショップで展示されている。

写真㊤=大作、ドラゴン・シェイプド・チェアを披露するアーチスト、グエン・タン・ファットさん(本人提供)

「個々の作品はそれぞれ形や素材が異なり、似たものは一つもありません。そのこと自体が、ベトナム文化の創造性や、伝統工芸の多様性を示していると言えるでしょう」と、ファットさんは話す。展示作品は木や漆、焼き物などさまざまな素材で作られた1000の作品群で構成されている。1000という数字は、ベトナム1000年の文化を表している。

ファットさんはハノイ近郊のソンタイで生まれた。町で唯一の漆芸作家として創作活動を続け、次世代の若い職人に伝統工芸を継承。こうした功績が認められ2017年には、市の人民委員会から最年少の〝ハノイの職人〟として表彰された。


龍からインスピレーションを得た作品群(本人提供)

今回の作品は、ベトナム人の起源に関する龍の伝説にインスピレーションを得た。ベトナム人の起源を、聖なる龍と妖精の子孫とする伝説は、部族を越えてベトナムは一つという思想にもつながることから、文学作品などでもしばしば引用されてきた。

作品の中でもひときわ目を引くのが、まばゆく輝くドラゴン・シェイプド・チェアだ。高さ1.65㍍、幅2㍍。黒檀に漆を塗り、24金で表面を覆った。製作には2年の歳月を要した。作品は「父の龍から、子への教え」という伝説をモチーフにしているという。

龍の尾の形や5つの爪を持つ脚、空に舞い上がろうとする龍の姿は、ベトナムの龍の起源でもある李朝ベトナム(1010-1225)のものにインスピレーションを得た。ハノイの郊外ソンタイ地区にある農村集落、ドンラムのモンフー寺院には、大きな龍が小さな龍に何かを教えている図や、空に登ろうとしている場面など、多くの浮彫が残っている。それらは、知性や家族のつながりを表現しているとされる。

「作品で強調したかったのは李王朝の時代の龍への敬意です。龍は、『全能』に対する人々の願いから生まれた伝説の生き物。当時の龍は、まさにベトナム人の特質を体現しています」とファットさんは話している。展示は、2月22日まで。ワークショップでは製作風景も見学できる。