ベトナムはこのほど、世界保健機関(WHO)からメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン製造技術の移転を受ける国のひとつに選ばれた。インドネシアなど4カ国とともに、南アフリカにWHOが設立したバイオ製剤製造の教育拠点で、技術移転の研修を受ける。選ばれた国々への教育訓練は今月以降、順次始まる見込み。

2月23日、WHOがジュネーブで記者会見して、明らかにした。ほかに同時期に技術移転を受けるのは、バングラデシュ、インドネシア、パキスタンとセルビア共和国。

WHOによると、ベトナムなど5カ国は専門家グループによる審査を受けた。その結果、「適切なトレーニングを受けることによってワクチン製造技術を吸収し、今後、比較的早い段階で生産に移行できる」と判断されたという。

会見でWHOは、今後、同様の技術移転施設を韓国にも設立する計画であると発表。これらの訓練施設では、新型コロナウイルスのワクチン製造のほか、インスリンやモノクローナル抗体、ガン治療薬の製造など、生物を用いて製造または抽出されるバイオ医薬品(生物学的製剤)の製造を希望する世界のすべての低所得国、中所得国が活用できるようにする考えだ。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェス事務局長は、低中所得層国への技術移転を阻む障害物として、熟練した労働力の不足と、脆弱な管理システムを挙げ、「このような技術移転のシステムを確立することで、十分に質の高いワクチンの製造を確実なものにできる。これで、低中所得層国が(他国からのワクチン供給を得るために)列の最後尾で長時間待つ必要がなくなった」とプロジェクトの意義を語った。

ベトナムのグエン・タイン・ロン保健相は、「ベトナムは発展途上国ではあるが、この十年間で、ワクチン製造の分野で大きく前進してきたと自負している。また、ベトナム国家規制当局のことも、WHOは認めている」と胸を張った。

ロン保健相は、この試みにベトナムが参加し、mRNAワクチンを生産できるようになれば、国内向けにとどまらず、アジア一帯、さらには世界の国々に向けに大量のワクチン提供が可能になると期待。「ワクチン供給の地域的な不平等を減らすことに貢献できると信じている」と述べた。

また、WHOがベトナムをワクチン製造国に選んでくれたことを喜ぶとともに、ベトナムのワクチン製造製薬会社が製造技術の移転をスムーズに受けることができるよう、政府、ベトナム保健省が最大限の側面支援をすることを約束した。

メッセンジャーRNAワクチンの製造技術は、ウイルスの新しい変異体に呼応してワクチンを迅速に改変や更新ができ、なおかつ大量生産が可能な高度技術だ。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大のなかで、コロナ抑制に向けたワクチン製造において重要な意味をもつ技術であり、将来的に発生が懸念される他の未知の感染症への対応にも役立つと、ロン保健相は指摘した。

ベトナムの製薬企業の能力と熱意は十分に高く、ワクチン製造受託に向けた政府の決意も固い。今後、WHOやパートナー諸国の支援を受けつつ、早くワクチン製造技術を習得し、必要に応じて新たな技術に応用していきたいと考えだ。このような努力は、地域のワクチン生産能力の向上におおいに役立ち、国やおよび東南アジア地域の健康と安全を確保に貢献すると、保健省では確信している。

ベトナムと同じ時期にプログラムに参加する予定のインドネシアのレトノ・レスタリ・プリアンサリ・マルスディ外務大臣も、インドネシアが、あらゆる国が新型コロナワクチンを入手できるようなワクチン政策の公平性を維持するための活動を、今後も継続して行っていくとした。特に、ワクチン製造技術と関連分野のノウハウの発展途上国への伝授を、積極的に支援していくとした。

マルスディ外務大臣はまた、この技術移転が世界のあらゆる国や人が平等に健康促進のための手段を獲得するための手助けになり、発展途上国が必要とする課題解決につながると主張。今回の試みが、回復と健康促進に向けた一つのステップだとしたうえで、「ワクチン製造はわれわれの自立を強化し、グローバルな健康回復に貢献できる手段だ」と訴えた。

WHOが設立した技術移転のプログラムへの参加の呼びかけには、多くの国々が参加を希望し手を挙げていた。WHOとしては今後も、技術移転活動を継続していく考えだが、ひとまず今の段階では、「mRNA技術はないものの、すでにバイオ医薬品製造の経験と技術を保持している国」を優先して選んだ」と説明した。

WHOは今回に先立ち、アフリカ圏からエジプト、ケニア、ナイジェリア、セネガル、南アフリカとチュニジア、また、南米からアルゼンチンとブラジルを、mRNA技術の移転先国として発表している。

今後も意欲をもつ国々との話し合いは継続し、今後数カ月以内に追加の技術移転先も発表されるとみられる。