ダナンのハン市場 外国人観光客に人気の“インスタント・アオザイ”

ダナン市中心部にあるハン市場は、輸入食材を販売するために、フランス人たちが1940年代に設立した市場だ。入り組んだ細い路地に、無数の売店が並ぶこの市場は、今日は別のある商品の人気で活気にあふれている。その商品とは、たった1時間で完成すると外国人観光客を魅了する、オーダーメードの“インスタント・アオザイ”だ。

◇ターゲットは外国人観光客
アオザイは、ベトナム人の伝統的な衣装だ。両脇にスリットの入った丈の長い上着を、ズボンの上にまとう。だが、最近では日常的に身につけられることは少なくなり、結婚式やテト(旧正月)など特別なときの衣装となっている。

ハン市場管理部のホアン・チュン・ツオン・ズック副部長によると、市場には現在、アオザイの生地を売る店が50あり、アオザイの仕立て屋が37軒、入居しているという。

人々の生活が激変し、既製品の西洋風の洋服を着るようになったため、布地の販売店や仕立て屋は、最近までずいぶん苦しい時期を過ごしてきた。それが、激変したのは、ダナンを訪れる海外からの観光客が急増したからだ。「多くの外国人観光客が『アオザイを作ってもらいたい』と訪れるようになり、市場の職人たちの仕立ての技術が生かされるようになった」とズック副部長は話す。

外国人観光客を引き付けたのは、それだけではない。ダナン滞在の時間が短い人もターゲットにできるよう、1時間でアオザイを仕上げるというサービスを導入したのだ。好みの生地を選び、採寸した後、注文した客は市場内を散策したり、周辺を観光したりして1時間たったころ、自分専用のおみやげを引き取りに戻ればいいという手軽さが受けた。

価格は、上下1セットで35万~50万ドンと手ごろ。ズック副部長によると、市場で作られるアオザイの数は毎日約300着、1カ月で数万着に及ぶという。

ハン市場内で生地の販売とアオザイの仕立てを行なうレ・ティ・クィン・リエンさんの店も、多くの外国人観光客の要望にこたえてきた。その大部分が韓国人の女性たちだ。リエンさんの店では、時には、1時間に12枚ものアオザイの仕立ての注文が入ることもあるという。

友人らとともに始めてダナンを訪れた韓国人観光客のスン・シーキムさんは、「アオザイといえばベトナムのシンボルですし、思い出になるので作りたいと思っていました」と語った。仕上がったアオザイを手に、スンさんは「帰国したら友だちにも紹介してあげたい。私もまたいつか、ベトナムに旅行に来たいです」と満足げな表情を見せた。

◇スピード仕立てで既製品に対抗
仕立て屋のルウ・ティ・トゥアンさんは、ハン市場でアオザイを作り続けてもう20年になる。トゥアンさんは1着を約45~50分で完成させる熟練職人だ。それでも、注文を時間通りに1時間でアオザイを仕上げるのはたいへんな仕事だ。トゥアンさんは「顧客の信頼を得ることが何よりも大切なので、必死に時間内に仕上げます」と言う。

この店では毎日平均10~15枚のアオザイの注文がある。注文が同じ時間帯に重なったりすると、手の空いている他の職人に協力を求めるのだという。そのように仕事を分担できることが、時間どおりに製品を完成させられる、この市場の強みだ。

10年ほど前からは、トゥアンさんの娘のレ・ホン・トゥ・アインさんも母親を手伝っている。「仕上がったアオザイの品質と時間通りの納品が、外国人観光客らを満足させるためには不可欠だ」とアインさんも母親の意見に賛同する。それに加え、「最近ではウェブサイトをチェックしてくる外国人観光客も少なくない、ウェブ上での評価や口コミ情報なども重要ね」と最近の観光客らの動向を分析している。