ベイルート爆発被害の病院にマスク1万枚など寄贈 ベトナムのAIP財団

子どもたちへのヘルメット寄贈活動を展開するベトナムのAIP財団(Asia Injury Prevention Foundation=アジア傷害予防財団)がこのほど、傘下のヘルメットメーカー、プロテックで、新型コロナウイルス対策用マスクの製造に乗り出した。人道的援助に活用してもらおうと、1万枚の医療用マスクと手袋が、大規模な爆発事故が発生したレバノンの首都、ベイルートの病院に寄贈された。

今回、医療マスクが届けられたのは、ベイルートのアブー・ジャウード病院。硝酸アンモニウムが原因とされる爆発事故では、市内の多くの病院が直接的な被害を受けたほか、物資の流通が停滞し、医療用マスクや防護服、フットカバーや手袋などの基礎的医療資材が欠乏する事態となっていた。

最新の報告では、今回の爆発事故で6000人が負傷し、その多くは非常に深刻な状態である。さらに、30万人が住まいを失い、事故による粉塵や拡散した化学物質の影響を受ける可能性が高い、無防備な屋外での暮らしを余儀なくされている。

爆発により、拡散された硝酸アンモニウムの悪影響は深刻で、特に子どもなどでは、肺や呼吸器系にひどい後遺症をもたらす可能性がある。微細な化学物質を含む粉塵を吸い込むことによって、気道や呼吸器が刺激され、咳やのどの炎症、呼吸困難などを引き起こし、最悪の場合は窒息死に至る。

硝酸アンモニウムそのものも、頭痛やめまい、腹痛や吐き気、血便の混じった下痢などを引き起こし、心臓や循環器の問題を引き起こしたり、けいれんや失神などに至ったりする場合もある。また、体力の低下、心理的な副次的な問題にもつながっていくとされる。さらに、硝酸アンモニウムが水に溶解し、人体に触れると、目や鼻、皮膚の炎症を引き起こすことがある。

これらの問題は、今後もしばらく社会的な問題として継続すると考えられるが、マスクがあれば、ベイルートの人々や子どもたちの症状を緩和できるほか、懸念される新型コロナウイルスの被災地での爆発的な感染拡大を予防できる可能性がある。

そこで、AIP財団とプロテックが、マスクの供給と支援に乗り出した。アブー・ジャウード病院以外の病院などへも、今後、マスクや手袋を供給していくとしている。

AIP財団を創設したグレイグ・クラフト会長は、「事態は深刻で、政治や宗教、民族の違いを気にしている場合ではない。緊急の支援と援助が求められる事態だ。支援をしてくれたベトナム政府とレバノン大使館、そしてベトナムの人々に感謝している」と話した。

在ベトナム・レバノン大使館のアディブ・コウテリ大使は「(爆発で)ベイルートの主要な港湾が破壊されたうえに、病院の設備も被害を受け、機能が大きく失われた」と現状を説明。AIP財団などに対して、「ベイルートの市民を支援してくれるために、驚くべき努力を注ぎ、迅速に援助の手を差し伸べてくれた」と感謝の気持ちを述べた。

AIP財団は1999年にベトナムで設立し、ベトナムや東南アジア各国でのバイク事故による死傷者を減らそうと、ヘルメット着用の推奨活動を展開。着用しなくても罰則規定のない子どもたちへのヘルメットの無償提供を続ける一方、事故で後遺症を負った障がい者の雇用の場として、傘下にヘルメット製造の民間企業、プロテックを設立している。