中国からの投資移転 ベトナム誘致に向け「長期的視野で準備を」 専門家ら指摘

新型コロナウイルスの早期封じ込めに成功したベトナムだが、そのリードを生かし、世界的バリューチェーンの仲間入りを果たすには、これまでとは違うアプローチが必要だと専門家らは言う。多くの世界的企業が中国以外の国への投資移転を検討してはいるものの、実現までには時間がかかるため、ベトナムは自社技術の向上など長期的な視野で誘致の準備を進めるべきだという。

計画投資省と海外投資局の調査によると、今年6月のベトナムへの新規の外国直接投資(FDI)は総額17億9000万ドンだった。前月と比べると14.9%増えており、前年同月比でも3.1%増まで回復した。6月の伸びが大きかったことが寄与し、今年上半期の外国直接投資は総額156億ドン(前年同期の84.9%)となった。

6月の1件あたりの平均投資額も480万ドルで、3月の平均投資額の2.4倍となった。5月17日時点での数値と比べても67.2%増だった。

ベトナム統計総局工業統計局のファム・ディン・トゥイ局長は、ベトナムへのFDIの回復した理由について、「米中間の貿易摩擦と新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、投資先が中国からベトナムへとシフトした、と明言できる証拠はない」とした。企業が、ある国から別の国へと投資先を変更するのは、撤退に伴う資産移動のコスト発生や、新たな投資先候補での優遇措置の比較検討などのため容易ではなく、一昼夜に実現できるものではないからだ。製造業の場合だと、移転の作業は2年から5年ほどかかるため、現時点でのベトナムFDIの増加は「中国からのシフトとは言いがたい」とトゥイ局長は説明する。

一方で、「中国国外へと投資移転を考え、移転先を探す世界的な動きは明らかに存在する。その好機をつかめるかどうかは、ベトナム側の努力次第だ」と話すのは、ベトナム外国投資企業協会のグエン・バン・トアン副会長だ。

トアン副会長は、「ただ、現状の中国投資のすべてが、簡単に撤退されると楽観視はしないほうがいい」とも指摘する。「中国は依然として、安価で大量の労働力があり、低価格帯の商品だけではなく、あらゆる市場に対応できる製品や技術応用力を備えているなど、依然として利点は多い」。

そこで、ベトナムが目指すべきは、世界的なバリューチェーンに深く関与し、参加できるようなかたちでの新たな投資流入だ。かつてのように、短期的な外部委託の受注だけに注目するのではなく、長期的な視点に立って技術や人材を準備し、ハイテク技術を応用した部品やコンポーネントの製造などの基礎力向上に注力すべきだとトアン副会長はいう。

海外投資の誘致にはライバルも多い。インドネシアやインド、タイなども、優遇税率の適用や土地や人材活用上の特別措置などを採用しており、ベトナムはこれらの国々とも、厳しい競争をしていかなければならない。

ベトナム家電製造大手、サンハウス・グループのグエン・スアン・フー会長は、「課税や新型コロナの影響などを回避するために、企業は部品などの供給源を分散させたり、生産ラインの一部を中国から他国へ移転させたりする可能性はある」と予測している。「ベトナムの企業は、まずは市場を見極め、自社の可能性を最大限に生かして、最適な計画を選択すべきだ」と考えを語った。よい取引先企業を見つけ、生産技術を磨き、自社ブランドの創設や人材確保などに今から着手しておくことが、コロナ後を生き抜くために必要となるだろう。