日本企業のベトナム進出、今後も続く見通し 人材育成などが課題

新型コロナウイルスの感染収束後、日本企業の海外事業展開予定地として、国別の候補地面でベトナムが筆頭にあがることが最も多いことが分かった。ジェトロ(日本貿易振興機構)がこのほど行った調査で、ベトナムは日系企業の投資先予定地でタイを抜かし、中国に続く第2位に浮上した。

◇事業展開の選択肢を拡大
ベトナム国内では、今年3月末までに、3万3294件のFDIプロジェクトが進行中で、登録資本金は総額3933億ドルだった。すでに投資された金額は2369億6000万ドルに達したが、これは登録資本総額の60%にあたる。国別にみると、最も投資額が多かったのが韓国企業からの投資715億ドルで、全体の18.1%を占めた。 日本は第2位で、全体の15.9%に相当する625億ドルを投資した。シンガポール、台湾、香港、中国がこれに続いている。

ジェトロ・ホーチミン市事務所の平井伸治所長は、新型コロナウイルエスの世界的な感染拡大より前にすでに、「日本企業は、ベトナムを魅力的な投資先だと認識していた」と明かし、今年じゅうには、製造業、サービス業などの分野で、多くの日本企業のベトナム進出が実現すると予測。「すでにベトナムで事業展開をしている日本企業も、ホーチミン周辺だけではなく、メコンデルタなどへと事業展開の範囲を大きく拡大していくだろう」と平井所長は話す。

過去に進出してきた日本企業のほとんどが、ベトナムを製造業拠点の設置場所と考えていたが、今やベトナムは日本製品を販売する市場としても急成長している。昨年、ベトナムは日本の農林水産物の輸出先の上位5カ国に入り、ベトナムへの輸出総額は535億円(約1000万ドル)に達した。

直接販売であれ、インターネット上の電子商取引であれ、自社製品をベトナムに向け販売したいと考える日本企業は確実に増えている。そこで、ジェトロは今年初め、企業間取引に特化したオンラインサイト「JAPAN STREET」の展開を始めた。日本製品のベトナムでの販売を促進する一種のオンラインカタログで、すでに500社以上の企業が参加。さらに参加企業数は増える見込みだ。

ベトナムは人材が豊富で、労働者らの技術水準も向上している。さらに中国やASEAN諸国との貿易中継点になり得る地理的利点もある。労働環境も良好で、政府の主義政策も透明性が高いことから、企業が効率の良い経営を実現できるとの期待が高まっている投資先なのだ。

◇課題を解消へ
一方で、ジェトロの調査では、投資予定の日本企業らが、ベトナムのインフラ整備、特に陸上輸送とロジスティクスの分野に不満を抱えているということも浮き彫りにした。同様の課題について問う多調査では「中国のインフラ整備に不満がある」と答える企業はここ数年間、2~5%の間にとどまっているのに対して、ベトナムとタイでは年々不満が増加する傾向にある。今回の調査でも、ベトナムのインフラ整備に対して不満をもつ企業は実に全体の20%に達した。

新型コロナの世界的な感染拡大によって、日本を含む外国の企業は、サプライチェーンの最適化に集中せざるを得なくなり、ベトナムへの外国直接投資(FDI)の流れを鈍らせる結果となった。

ホーチミン日本商工会議所の岡田英之・前会頭は、「ベトナムのすそ野産業は改善しているが、日本の企業が求める水準の部品や原材料を供給するにはまだ至っていないのが現状だ」と話す。さらに、日本企業は、優秀な人材の不足に加え、煩雑な行政手続き、特に税金や税関の手続きに不安を抱えていると説明する。

それでもなお、感染症の拡大を抑制し、景気回復を促進させている成果を上げているベトナムは、日本企業にとって海外進出先の選択肢としては優先順位の高い選択肢だ。日本の感染状況が抑制されれば、近い将来、投資の流れも増加に転じるだろう。

この数年間、日本企業は、1つの市場だけに依存するリスクを回避しようと、海外のサプライチェーン多様化を進めてきた。それでも、新型コロナの感染拡大と世界的な貿易摩擦によって、サプライチェーンの混乱が引き起こされたため、この課題に対する対処として日本政府はこのほど、製造拠点や投資先を海外にシフトしたり分散したりする企業向けの支援政策の実施に踏み切っている。このことも、ベトナムにとって、ひとつの追い風だ。

すそ野産業をさらに発展させることができれば、世界中に進出している日本企業に部品や原材料を供給する企業になることも可能で、期待が高まっている。特に工業生産やハイテク産業の分野で、より多くの投資家を誘引するため、ベトナムは新たに職業訓練施設などを開設し、今後は人材の質の向上も図っていくべきだ。