ベトナム経済に回復のきざし 新型コロナ感染者増加が懸念材料

新型コロナウイルスの世界的感染拡大で複雑化する経済下にあって、ベトナム統計総局は、今年上半期のGDP成長率が5.64%増だったと発表した。2018年には7.05%、2019年には6.77%であったのと比べると低い数字だが、昨年の1.82%からは大幅に改善し、世界の銀行などもベトナム経済の回復のきざしを指摘する。一方で、最近の感染者数の拡大とワクチン接種の遅れが、回復の足を引っ張る材料になりかねないとの懸念もある。

◇回復のきざし
ベトナム統計総局によると、今年上半期、鉱工業指数(IIP)が8.91%増になるなど、さまざまな指標が、上半期のベトナム経済の成長傾向を示唆している。前年同期比11.42%増となった製造加工業の回復が最大の動力となっており、全体の成長の2.9%はこの分野によるものだった。特にその回復は第2半期にめざましく、鉱工業指数は第一四半期の2倍近い11.45%増となった。農林業も、前年同期比3.69%増で昨年1~6月 の2.42%を上回った。

海外との貿易総額は3167億3000万ドルに達し、前年同期比で32.2%増加した。このうち、輸出は1576億3000万ドル(前年同期比28.4%増)、輸入は1591億ドル(同36.1%増)ドルだった。

ベトナムへの海外企業による総投資は、1~6月の6カ月間で推定約1170兆ドン(約508億7000万ドル)に達した。この数字は前年同期比7.2%増で、2020年通年の増加率3%を大きく上回った。

ベトナム国内企業による海外向けの投資では、24件のプロジェクトに対し前年同期比77.6%増の総額約1億4380万ドルが投資され、録証明書を獲得した。既存の投資プロジェクト9件への追加投資は、総額約4億320万で前年同期の10.8倍の金額にのぼった。新規と既存案件を含めてのベトナム企業による海外投資は総額5億4700万ドルで、金額的には前年同期比の2.5倍近くとなった。

一方、経済の専門家であるボー・チー・タイン博士は、「製造拠点が多く集まるバクザン省やバクニン省、ホーチミン市、ビンズオン省、ドンナイ省などで新型コロナ感染の患者数が増えていることから、ベトナム経済は依然として多くの障壁に直面している」と指摘。「このままでは国が2021年の目標とする『GDP成長率約6.5%』の達成は、さらに難しくなるだろう」と警鐘を鳴らす。

◇ビジネスを誘致する魅力的な環境に

6月までのベトナム国の新規事業設立と事業再開をした企業の合計件数は、前年同期比6.9%増の9万3200社だった。新規設立企業の1社あたりの登録資本金は平均で140億ドンにのぼり、前年同期比24%も多い数字となった。

スタンダードチャータード銀行が今月8日発表した調査、「ボーダーレス・ビジネス-ASEAN横断回廊」では、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国のなかで、ベトナムが事業拡大を模索する企業として最も期待の高い国の一つに選ばれている。ASEAN諸国の国々は地域内での新規機械を探っており、調査に協力した企業の99%が「生産拡大に期待している」、96%が「収益の改善に期待している」と応えており今後1年間でASEAN地域のビジネスが堅調に成長すると期待している。

スタンダードチャータード・ベトナム支部のミッシェル・ウィー最高経営責任者(CEO)は、堅調な経済成長、大きな国内市場、人件費の安さと豊富な労働力、戦略的な立地と、多くの国々と自由貿易協定を締結していることなどのベトナムの基礎的な力強さを挙げ、「ベトナムは依然として投資や事業進出先として魅力的だ」と分析する。

香港上海銀行(HSBC)は、自行のベトナム分析レポートで、ベトナム経済が改善のきざしを見せているとして、コロナ禍にあってもベトナムの将来は「今年も他の年同様に輝かしい」との期待を示した。

一方、世界銀行は、ベトナムとマレーシアがアセアン域内をけん引する推進力になるまでに成長したと分析。今年の経済成長率をベトナムが6.6%増、マレーシア6%増と予想している。

アジア開発銀行は、今年のベトナムのGDP成長率を6.7%で、東南アジア諸国の中で最も高くなると予想。しかし、ワクチンの調達が遅れている現状に懸念を示し、「観光を含む本格的な国内経済活動の再開には時間がかかり、経済成長の阻害要因になりかねない」と見ている。