ベトナムの映画配給市場、外国資本の注目と存在感高まる

CGVシネマでは先行上映会で出演俳優らを招く演出が市民らに人気だ

近年のベトナムの映画業界は、その急成長により海外から投資先として注目が高まり、韓国系CJCGVが50%の市場占有率(シェア)を誇るなど海外資本が台頭する。一方で、国内の配給会社もさまざまな工夫を凝らし、追随している。

外国資本が台頭
ベトナム映画配給協会によると、海外直接投資(FDI)を受けている外資系の配給会社が業界を圧倒的に支配しているというのがベトナム映画界の現状だという。

ベトナム各地の主要都市で、50席規模以上の上映スクリーンを複数備えた複合型映画館であるシネマコンプレックス(シネコン)のうち、外国直接投資を受けているものは全体の80%にのぼる。首位を独走している最大手は韓国系のCGVで、ベトナム全土の10都市に30カ所のシネコンをもつ。2位のロッテ・シネマも韓国資本で、5か所の拠点がある。プラチナム・シネプレックスはインドネシアのマルチビジョン・グループが設立した。

一方、ベトナムの国内企業ではBHDスター・シネプレックスという配給会社のほか、ギャラクシー・チェーンを運営するティエン・ガン・フィルムの2社が、海外資本の競合各社と競っている。

韓国系CGVの急成長
CGVがベトナムの映画市場に参入したのは、他の企業に比べて最近だ。同社は2011年、7000万ドルを越える買収価格でベトナムの大手映画配給会社、メガスター・シネマを買い取り、2014年にCGVシネマと名称変更した。立地のよい良質な映画館を譲り受けたCGVは、シネコンなどのインフラ整備や映画そのものへの投資などを着実に積み重ねて急成長した。

CGVは、子ども向けに特化した上映施設やIMAXシネマ、飲食エリアや保護者の待機スペースなどを備えた国際基準を満たす大型複合映画館の草分け的存在だ。CGVベトナムのドン・ウォン・クワク最高経営責任者(CEO)は、「今後、毎年10カ所のシネコンを開業し、2018年までにベトナム全土で60カ所を経営することが目標。ホーチミン市とハノイ市以外にも、大型の近代的な映画館で映画を楽しみたいという重要のある地方都市があり、それらの都市でも映画館の開業を考えている」とベトナム展開の目標を語る。

クワクCEOはまた、アメリカや韓国などでは、市民の映画館来訪が年平均4回程度であるのに対して、ベトナムでは5年に1回と非常に少ない点を指摘。「ベトナムの人々の映画館来訪を増やす余地は十分にある」とみている。
CGVは現在、UIP、ブエナビスタ・インターナショナルという米ハリウッド映画の二大配給会社から、ベトナム国内で独占的に映画配給認可を受けている。つまり、ハリウッド映画の約90%が、CGVを通じてベトナムに配給されるということだ。同社はまた、韓国での映画配給やコンテンツ製作の最大手、CJエンターテインメントの映画の独占配給権ももつ。

ホーチミン市7区の新興住宅街、スカイ・ガーデンに住むトゥ・ハーさんは、「CGVシネマはハリウッドの最新ヒット作を米国と同時期に上映してくれる。また、VIPカードの所有者には3D映画やIMAXシネマのチケットなどがプレゼントされたり、映画館に行くたびにポイントがたまったりするなどの特典があるのもいい」などと消費者の視点から評価する。CGVでは「ワイルド・スピード SKY MISSION (原題・Fast & Furious 7)の上映時に、出演キャストからのメッセージを流すなどの特典もあった。映画のプレミア上演会のさいに出演者らを招くといった演出もあり、市民らの支持を集めている一因のようだ。

巻き返し図る国内企業
これらの外資系の台頭に対して、ベトナムの映画配給会社はまだ、同レベルで競争するには至っていないのが現状だ。しかし、BHDやギャラクシーは善戦しており、巻き返しを図っている。

2015年、BHDとギャラクシーは資本投資を強化し、ホーチミン市内に質を重視した複数のシネコン開設で観客の動員増を果たした。BHDは映画館の規模と立地に細心の注意を払い、一方でギャラクシーはより低価格でのチケット販売といった戦略で、それぞれ顧客の囲い込みに成功した。

ベトナム国内の映画配給会社でもう一社、注目されているのが、サイゴン・メディアと ソン・ヴァングループが共同設立した「Mega GS」だ。同社は最近、元タンロンシネマの跡地に同社としては初のシネコンとなる映画館を開業したばかりだ。

この映画館は6スクリーンあり、総座席数は約1000席。上演映画館のうち2室は3D対応だ。ベトナム人の嗜好にマッチした映画の選定や画質の良さ、チケットの手ごろな価格設定などが、同社の利点だ。同社はホーチミン市の1区と5区、ビンタイン地区でも、建設中の貿易センターなどにシネコンを入居させる予定だ。

国内の配給会社によると、映画視聴者の好みなどの分析を積極的に行っており、さまざまな企業努力により、近い将来、外資系配給会社との格差も縮小すると期待しているという。