充電インフラ整備が急務 ベトナムの電気自動車事情

「2050年までに温室効果ガスゼロ」の目標を掲げるベトナムでは、あらゆる交通手段の燃料をグリーンエネルギーにすることが理想的と考えられている。実現できるかどうか、かぎを握るのが電気自動車の普及だ。専門家は、充電ステーション事業への民間投資の誘導や電力供給の効率化を図るスマート・グリッド(次世代電力網)の整備が不可欠だと指摘している。

写真㊤=モデル VF 7 of Vinfast (Photo: Vinfast)

ベトナムは40年までに、化石燃料を使用する車やバイクの生産、組立、輸入を順次制限、停止し、50年前までにすべての車が電気やグリーンエネルギーを使用することを目指している。交通省の統計によると昨年の時点で、国内の電気自動車の登録は2万台以上に上る。電気自動車は、大都市生活者の嗜好にもマッチし、自動車産業の将来性にもつながると受け止められている。

しかし、電気自動車の需要に見合った充電ステーションの整備はできていない。電気自動車メーカーで充電ステーション最大手でもあるビンファースト(VinFast)の国内充電ポート数は現在、自動車バイクを合わせて15万以上。これらの充電ポートは、パーキングやバス停、ショッピングセンター、ガソリンスタンドに設置されているが、ユーザーは主に自宅で充電しているのが実情だ。

グリーンエネルギーへの移行や充電ステーションの投資環境作りに関する国連開発計画(UNDP)の研究会で、電気エネルギー研究の専門家、ウイルマー・マチネス博士は、「ベトナムにおいては、電気自動車というコンセプトそのものが、まだ始まったばかりだ」と話した。

化石燃料を使う車に比較してグリーンエネルギーを使用する車の数は、ベトナムではまだ少ない。他の国に比較して道路上、特に高速道路の充電ステーションが少ないのもこれが理由で、消費者が電気自動車の購入を躊躇する主な理由も、こうしたインフラ事情によるものだとマチネス博士は確信している。

道路交通インフラ開発計画によると、50年までにベトナムでは現在の8倍以上の9000㌔の高速道路が整備される。ベトナム道路総局傘下の環境科学技術国際協同組合のト・ナム・トアン代表は「交通省では、地方の要請を受けて、充電ステーションを増やす方向で高速道路ネットワーク計画の更新作業を進めている」と説明。「高速道路にはそれぞれ、休憩所を併設するよう設計されているが、こうした休憩所こそ充電ステーションの設置場所としてふさわしい」と話す。

マチネス博士によると、最新の電気自動は、1回の充電で180~300㌔の走行ができるが、長距離ドライブをする人にとって、休憩の間に充電ができる数多くのステーションの存在は欠かせない。「もし、この問題を解決できないようであれば、電気自動車がディーゼル車やガソリン車に置き換わることは難しいだろう」との見方を示す。

タイやドイツ、ノルウェー、韓国で行われた充電ステーションに関する実践的研究では、充電ステーションのネットワーク構築には、政府と民間の密接な協力が必要であることが示されている。ドイツでは充電ステーションの研究と普及に向けて、助成や基金、電気自動車の新規購入者への補助金制度も整備。家庭での充電基準や充電ステーション設置に厳格な基準を設けている国も多い。

UNDPの研究によると、50年までにベトナムですべての車が電気自動車になった場合、39の休憩所のある南北高速道路東区間では、7800の充電設備が必要になり、これから25年間で約22億ドル(約3400億円)の投資が必要となる。民間の投資を呼び込むためには、投資を回収できる仕組作りが不可欠で、充電ステーション設置後5年間の税控除や続く5年間の50%減税といった優遇制度など、環境作りができるかどうかが重要となってくる。

ベトナム電力公社の電力専門家、グエン・チェ・ビン氏によると、課題は充電ステーションの数だけではない。電気自動車の普及によって、全国の電力システムに過剰な負荷がかかり、局所的な停電が発生するような事態は避けなくてはならない。現在、公共充電ステーション・システムは国の電力消費量の10%だが、今後は、車両の台数と各ステーションでの充電時間を計算する必要があると指摘する。

こうした電力の安定供給の面から、ハノイ工科大学のグエン・ボア・ヒュイ氏は、付近の利用可能な充電設備や充電時間、充電方法を遠隔地からモニタリングできる次世代のスマート充電システムの導入を提案する。こうしたシステムを使えば、電力消費のピーク時間を避けながら、多くの車に電力を分配し、電力不足や停電を避けることができるとしている。