外国人観光客は急増でも、伸び悩む観光収入=娯楽、ショッピング施設が不足

近年、ベトナムを訪れる外国人観光客数は、近隣諸国がうらやましく思うほど大幅に増加しているが、その一方で、観光客の消費額や観光収入は大きく後れを取っている。

写真㊤=ファンシーパン山に向かうムオンホア登山鉄道の駅を利用する外国人観光客

■物価の低さはアピールポイントだが…

過去3年間、ベトナムを訪問した外国人観光客数は、年30%で増加を続けた。2017年、ベトナムは世界で最も成長している10の訪問地で6位にランクしたほか、2018年には外国人観光客数が1500万人に達した。

ただ、訪問者数は増えているが、ベトナムの観光収入は、地域の他の国々と比べてはるかに少ない。ベトナム観光総局(VNAT)によると、外国人観光客のベトナムにおける平均消費額は900ドルなのに対し、シンガポールは1105ドル、インドネシアは1109ドル、タイは1565ドルである。

消費額の低さは、物価が低いことを反映しているが、しかし、この物価の低さはベトナム観光のアピールポイントの1つでもある。

英国の旅行業協議会のメンバーであるBCGのシニアアドバイザー、ジョン・リンキスト氏は、「平均滞在日数はベトナムが9.5日、タイが9.6日とほとんど変わらないが、1日当たりの消費額は、ベトナムが96ドルなのに対し、タイは163ドル、シンガポールは325ドルと大きく引き離されている」と指摘する。

■夜10時に閉まるホイアンの街

さらに専門家は、低い物価に加えて、ベトナムには、観光客が、観光地や宿泊施設以外にお金を使う機会がないからだ、とも分析する。ハノイやダナン、ホーチミン、フーコック島といった主要都市でさえ、観光客が利用するエンターテイメント施設やショッピングセンターは少ない。

一例として、中部沿岸の観光地・ダナンについて言えば、長期にわたって高い経済成長を遂げ、観光施設に多額の投資を行ってきたが、市内にはまだ観光客向けの名物や、とりわけナイトライフを楽しむ娯楽サービスがない。ビーチや海、シーフード、ノンヌック村、バナヒルズといった名所や名物はあるが、外国人はあまり関心を持っていない。

ハノイ・レッドツアー社のダン・ビック・トー副社長は、「フーコック島やダナンは魅力的だが、リピーターになってもらえるような新しい仕掛けが必要だ。ダナンを訪れる観光客は、バナヒルズやゴールデンブリッジ、インターコンチネンタル・ダナン・サン・ペニンシュラリゾートといった高級リラクゼーション施設を好む。しかし、これらも、観光客に長く滞在し、より多くのお金を使ってもらうには至っていない」と指摘する。

また、トランスベト・トラベル社のグエン・ティエン・ダット副部長も、「ダナンは、観光面で多くのアドバンテージがあるが、例えば、バーや娯楽施設といったナイトライフを楽しむ店が不足している。ナイトマーケットはあるが、小規模であり、大部分は屋台の食べ物を売っている。ダナンからは、世界遺産の街ホイアンにも簡単に行けるが、ホイアンの店や市場などは夜10時になったら閉まってしまう。他のアジアの都市は、真夜中を過ぎても営業しているのに」と言う。

近年、観光地における民間投資は、テーマパークやショッピングセンターといった総合施設に焦点が当てられている。例えば、ダナン郊外のサンワールド・バナヒルズ・コンプレックス、ラオカイ省のサンワールド・ファンシーパン・レジェンド、ハロン湾のサンワールド・ハロン・コンプレックス、ニャチャンやフーコック島にあるビンパールなどがその代表だ。しかし、これらの高級リゾート施設も需要の伸びに追いついておらず、こうした観光プロジェクトに投資しようとする企業もほとんどない。

インフラの未整備は、観光開発の妨げになる。国際会計事務所グラントソントン・ベトナムのケネス・アトキンソン会長は、「主要都市におけるホテルの品質と数は大幅に改善されたが、客室料金や稼働率の上昇にみるように、需要が供給を上回るペースで伸びている」と言う。

問題は、サービスの選択肢が増えれば価格は上がるため、ベトナムの魅力がなくなるのではないかという点だ。価格は近隣諸国より抑えたままで魅力あるインフラやオプションを提供できれば、観光客は魅力に感じ、観光収入も増加するだろう。