ドンダン村の緑の宝、希少なギエンの木 住民が保全 北東部ランソン省

ベトナム北東部ランソン省ドンダン村では、絶滅も危惧される貴重なギエン(Nghiến)の木が、地元の人々によって、代々守り続けられてきた。ギエンの木は単なる樹木ではなく、その歴史的、文化的な価値に加え、環境保護の意味からも、村の人々に慈しまれ、大切にされているのだ。

◇緑の財宝
ギエンは、シナノキの一種で、ベトナム北東部と中国の一部に自生する。 樹木の国際的なレッドリストでは、「個体群が縮小している」と懸念されている希少種だ。

険しい山々の中に里山や畑が点在するランソン省のドンダン村は、少数民族のタイ族の集落だ。村には139世帯、629人が暮らす。そして村のはずれに広がるのが、13へクタールに及ぶギエンの原生林である。村の長老らによると、この森は、ズオイ、ヴォイ、ボーバーモという3人の神をまつる神聖な場所だ。これらの神々は村の人々に健康の恵みを与え、作物の豊かな実りをもたらし、自然災害や疫病から守ってくれているという。ギエンは、歴史的、文化的に重要で、人々の感情の面でも地元の人々の心のより所になっているだけではなく、生態学的な遺産でもあり、固有種の集団を維持するためにも一帯の保護が重要視されている。

ドンダン村の村長だった経験を持つズオン・ディン・ハンさんも、森の木々の正確な樹齢を知らないというほど木々は樹齢が古い。ハンさんは「村人たちは森を誇りに思っており、村人以外は足を踏み入れることを禁じられている」と説明する。

ギエンの木は、高度約400メートルを超える岩山のてっぺんなどに生息しており、ハンさんの知る限りでは、直径20センチメートルを超えるギエンの木が2019本もあるという。ギエンは、強靭さと耐久性に優れ、シロアリを寄せ付けないという性質からも重宝されてきた。「ギエンの木でつくられた家や家財は、半永久的に使うことができる。ギエンの木は、緑の財宝なのだ」とハンさんは話す。

◇村ぐるみの保護
森林の保護に関する村の規制はとても厳しい。村人であっても、ギエンの森に入るためには、森林保護協議会の許可を得る必要がある。森に木や薪を集めに行く人が、誰かの依頼を受け、便宜を図ってもらった見返りとして、ギエンの木を勝手に伐採したりすることがないよう、村の保護協議会では「森で仕事をする者は、親族の冠婚葬祭の際に他の村人から支援を受けてはならない」と規定しているのだという。

現在では、すべてのギエンの木が番号を割り振られ、村では2、3日おきに森へパトロールに入り、ギエンの木を数え、その状態を確かめる仕組みを確立している。さらに、村の役人や青年団、軍や警察などがメンバーとなり、森林火災や土砂崩れ、違法な森林伐採などの緊急時に即時に対応できるチームが作られている。

ランソン省森林保護局の役人であるグエン・カオ・クオンさんは、かつて、隣接するバクソン自然保護公園で働き、そこで地元住民らに働きかけて森林保護マップを作った経験がある。バクソンの森林は「村人共有の森」と指定されたため、村人たちは森林の保護のために一定の資金を行政から受け取ることができるといい、そのような枠組みの策定をドンダンでも検討している。

ドンダン村のギエン原生林も2018年、「バクソン・種の保護と居住地保全地区」に認定されている。