農業分野で進むDX コロナ禍で必須要素に

人工知能(AI)やIT(情報技術)の活用によって暮らしや経済に革新をもたらす、デジタルトランスフォーメーション(DX)が農業分野にも広がりつつある。生産性の向上やコスト削減を進めるうえで欠かせない要素になったと専門家は分析する。しかし、普及には課題も多く、政府の後押しが期待される。

写真㊤=ドローンの導入など、農業にも変革が訪れている

農業農村開発省(MARD)によると、DXはすでに、農業や漁業、林業で導入が進んでいる。中でも顕著な成果を上げているのが、農場を管理するプログラムやソフトウエアだ。水や農薬などを効率的に配分することなどによって、伝統的な農法から環境や天候に左右されにくい近代的な農業へと変革をもたらしつつある。

2021年末現在、国内には1万9000の農業組合と79の農業連合があり、うち12%の2200組合がデジタル技術を導入している。オンラインショップのプラットフォームや専門家の支援のもと、200万人の農家が技術的なトレーニングを受け、5万近い農作物がオンラインショップで扱われるようになった。取引件数もすでに数千に上っている。


デジタルトランスフォーメーションは、漁業で最初に進められた

新型コロナウイルスの影響によって、組織と個人それぞれのレベルにおいて、DXが必須となっている。農業分野のDXは、農家や組合、企業をサポートするのとともに、生産性や品質の向上、コスト削減を進めるキーファクターになるとみられる。


DXは、品質向上など農産物の価値を上げることに役立っている

まさに今、変革のチャンスを迎えているが、課題もある。技術革新に積極的にかかわっている企業のわずか23%。科学技術の研究開発費も限られ、75%が1980~90年代の古い技術を使っている。シンガポールに拠点を置き、植物の保全や農業技術の提供を進めるNGO、クロップライフ・アジアのディレクター、タン・シアン・ヒー博士は、「ベトナムは、農業のデジタル化の初期段階にある」と話す。博士によると、コメ、くだもの、野菜、コーヒーを栽培する130の農家を調査したところ、42%がデジタル農業への移行を望んでものの、どうすれば新技術を導入するかがわからないという。ただ、ベトナムでは、人口の89%が携帯電話を、68%がスマートフォンを使用しており、デジタル技術を導入するチャンスは十分にあると分析する。

農業と農村のための政策戦略研究所のディレクター、トラン・コン・チャン博士は「DXを進めるためには、農業に関する情報を集めてデータベース化し、短期、中期、長期にわけて開発の優先順位をつけなくてはならない」と話す。また、さまざまなインセンティブや小規模農家に対する金融支援を打ち出すことなどを提案している。DXの推進には時間がかかる。企業や農家の努力だけでは実現は困難で、関係省庁や地方当局の役目が欠かせない。